【東京都立川市】あそびが学び!その真ん中にあるものは、子どもも大人も“おもしろがる力”
学校法人みんなのひろば ふじようちえん
- 東京都立川市
- ドーナツ型の園舎
- ICT化
- 独自の研修
- 幼稚園

加藤積一園長
理事長兼園長 加藤積一
東京都立川市で生まれ育ち、旧米軍立川基地、米軍横田基地も隣接していた地域だったため、小学生の頃から、様々な国の香りがする友達が多かった加藤園長。園に入る前は、サラリーマン、会社経営等々、様々な社会経験を積む中、時にはバックパッカーをして、ヨーロッパ、特にロンドン、パリ等へ出かける。若い頃から、好奇心旺盛で、柔軟な思考で、様々な場面で多くのアイデアを実現する。現在の趣味は、読書・東野圭吾他、乗馬、スーパー銭湯巡り、いろいろな道の駅訪問、各地域の特産物を見て味わうこと。園の一角には、アフリカ、南米等々からの珍しい楽器が飾られ、「子どもたちは、その楽器に触れては楽しんでいます。(少々騒がしいですが)」
目次
ふじようちえんを歩くと・・・
“おもしろがる力”で子どもは育つ‼
サンタクロースさんの落としもの
みかんの段ボール箱から
求めるものは現場力
ふじようちえんを歩くと・・・
ダッダッダッ…。
タタタタタタ…。
ドスン。
キャハハハ…。
ふじようちえんの園庭を歩いていると、屋根の上からいろいろな音が降ってくる。子どもたちが走り回る音、飛び跳ねる音、笑い声としゃべり声。その音が、今日の子どもたちの元気な様子を教えてくれる。
屋上に上がると、ドーナツ形の屋根の上で各々の楽しみをみつける子どもたちの姿があった。

ふじようちえんのドーナツ型の屋上
端のない屋上を走り続ける園児。
同じクラスの友達とダンスを楽しむ園児。
木登りを楽しむ園児。
床に座っておしゃべりを楽しむ園児。
「おもしろいでしょ!!」
子どもたちと同じ輪の一点に立って、その様子を見つめていた加藤園長がつぶやく。まさに、多様性の時代にふさわしい光景のように感じた。

園庭で遊ぶ園児たち
園児それぞれが、それぞれの場所を見つけ、同じ輪の上で共存してる。

屋上でそれぞれの居場所をみつけ、楽しむ園児たち
加藤園長は、子どもの育ちは環境によって引き出されるものだという。そして、「子どもが育つ環境づくりが、先生の仕事です」と、教えてくれた。
そんな加藤園長は「使えるものは、なんでも使う」の精神をもっている。「その辺に落ちている石だって5回くらい使えるね」と、簡単に言うが、『5回…!?』とさすがに固まってしまった。
『まさか…』と思いつつ、ふと目線を流した先の交差点に「藤幼稚園前」と書かれた交差点標識があるのを見つけた。漢字表記の藤幼稚園に違和感を覚え、先生に聞いてみた。すると、ふじようちえんは、創立した56年前「立川藤幼稚園」という名前だったそう。でも漢字じゃ子どもたちが読めないだろうと思って、今のひらがな表記に変えたのだという。単純なことだけどすぐ実行する姿勢に、『なるほど』と感心した。
「今でもね、“藤幼稚園”って間違える人もいるんですよ。そしたら、こんな話のきっかけにできるんだよね」(加藤園長)
その時、「その辺に落ちている石が5回の役目をもらえること」が、容易に想像できた。相手の間違いですら、軽快なトークのきっかけに使ってしまう加藤園長であれば、たやすくやってのけてしまうのだろうと。疑ってしまったことを反省しつつ、環境づくりの重要なエッセンスは、先生自身が楽しむことだと理解した。
“おもしろがる力”で子どもは育つ‼
子どもの育ちの源は、『おもしろがる力』です。

手作りのタスキを持ち、屋上へ急ぐ先生
加藤園長と園内を歩いていると、保育室から急いで屋上に向かう先生と出会った。「先生、なにそれ?」と、呼び止める加藤園長。先生の手には、緑とピンクの画用紙で手作りした2本のタスキ。「さくら駅伝」「がんばれ」と書かれていた。

マラソンに挑戦した先生たち
「箱根駅伝に感化されて、作っちゃいました~」と笑う先生の後を追い、屋上に向かうと、2チームに分かれた園児が待っていた。第1走者がスタート地点に並ぶ。タスキをかけて走り出す園児、応援の声がどんどん大きくなっていく。

屋上を駆ける子どもたち
そういえば、ここにいる大人たちは「大きな声で応援してね」とか「順番を守ってね」とか、子どもたちに言ってたっけ?いや、聞いていない。加藤園長はレースを見守りながら、「どっちが勝つかは、案外分からないもんなんだよ」と笑っている。なるほど、これが育ちのおもしろがり方かと、納得した。
“おもしろいこと”はふじようちえんのいたるところに散りばめられている。
例えば、ポニーのはるちゃんの小屋に隣接する四角い枠、中をのぞくと、底が見えなくなるほどの落ち葉がためられていた。『これは?』と問うと、「これは、落ち葉のプール!」と加藤園長がいう。
この落ち葉プールづくりは、子どもたちの仕事だ。

落ち葉掃除をする園児たち
子どもたちは、この枠がいっぱいになるほどに落ち葉を集める。

落ち葉を集める子どもたち
“自分たちであそぶものは、自分たちでつくる”という考えのもと、落ち葉が溢れんばかりにたまった時、子どもたちは念願のダイブを楽しんでいる。

落ち葉のプールにダイブする子どもたち
さらに、園庭にある蛇口の下に水受けはない。初めてそれを使う子どもたちの服は濡れる。しかし、子どもたちは、そんな思いをしたくないと、水がはねないやり方を考えるのだ。
「園舎やこの環境は、すべて子どもが育つための道具なんだよ」と伝えているという。
サンタクロースさんの落としもの
加藤園長は「子どものときに、子どもをしっかりやること」が、やがて自立した一人の大人になり、また、社会に貢献し、幸せな未来をつくる一人として生きていくことにつながると信じている。だから、ふじようちえんでは、子どもが“子どもらしく”いられる環境を整えているのだ。

ふじようちえんで遊ぶ子どもたちの様子
“ロングビーチ”といわれる約40m×8mの広い砂場エリアには、黄色や青色、緑色などの様々な色のきれいな石が埋っていて、子どもたちは、自分で見つけると、持ち帰ることができる。加藤園長は、『昨夜、流れ星がたくさん流れたから・・・』とか、『サンタさんがふじようちえんの上を通った時、ソリからきれいな石が落ちたんじゃない?』と、園児に説明をする。
子どもたちはワクワクしながら、きれいな石を探す。現代の子どもたちには、様々な育ちの場面で「自分で見つけた‼」という経験が少ない。だからふじようちえんでは、こんな形で「自分の力で見つけた‼︎」という体験ができるようにしている。このきれいな石探しのルールは社会と同じで、ただ一つ。
「早いもん勝ち、取ったもん勝ち!」(加藤園長)
ただし、約束が一つあり、「たくさん見つけたお友だちは、見つけられなかったお友だちに、分けてあげてくださいね」というふうになっている。「自分だけ良ければいいということではなく、人に分けてあげられる心、これが大切です」と、加藤園長が教えてくれた。

園児がみつけた宝物
一人の女の子が私の足元に来て「こんにちは」とあいさつしたので、私も膝をついて目線を合わせてから「こんにちは」と返した。すると、女の子は黙って、自分の手のひらとにらめっこを始めた。
そこには、さっき見つけたばかりであろう小さな宝石の粒が、6~7粒ほど乗っていた。それらの宝石と数十秒見つめあった女の子は「はい!」ともう片方の手を差し出してきた。
私が開いた手を差し出すとそこには、ひときわ小さな宝石が一粒あった。
「くれるの?」
コクっと短くうなずいて、走り去っていく女の子。自分の宝物を誰かにあげるのはどうやら、複雑な気持ちのようだ。
私の手のひらの上で輝く小さな宝石には収まらないほどの、大きな優しさをもらったような気がした。きれいな石探しの我欲からはじまり、人にも分けてあげようとする“誰かを思う気持ち”に触れ、ふじようちえんの教育を感じた。
園むすびライターの手記より
みかんの段ボール箱から
「やがて幼稚園を経営することは、自分なりに承知はしていましたが、園長というイメージは、60歳くらいかな?って思っていました」と、振り返る加藤園長は、40歳代でふじようちえん園長に就任した。
そんな園長の転機となったのは、父親からの一つのお願いだった。
当時、会社を経営していて忙しく過ごしている中、父親から『バスの運転手さんがインフルエンザになってしまって、1週間代わりに運転をしてくれないか?』とお願いされた。加藤園長は「1週間は長くない?と、思ったね。その時は」と、笑っていた。しかし、父親の頼みを無下にすることもできず、承諾することに。
園バスの運転手で1週間の園児送迎を終え、やっと訪れた金曜日。帰ろうとした加藤園長は、自分の足をつかむ、小さな手に気が付いた。その手の主は「あそぼ!あそぼ!」と無邪気に誘ってくる。その手はどんどん増えていき、園児の声が、加藤園長の心にも響いたとき…「ふと、このままお金の計算ばかりしていていいのかな?と、思った」(加藤園長)
会社の売上を上げることにも、やりがいを感じていた。しかし、その小さな手が訴えかけるものに大きな何かを感じたという。「これが、お金よりも大切な、何かを感じた瞬間の思い出です」(加藤園長)
園の経営に携わることを決めた加藤園長だが、実際に入って感じたのは“時代遅れ”の設備や環境と習慣や今まで通り・・・そこに“変化”という言葉はなかった。
時代の変化に対応するために、加藤園長が初めに変えたものは“棚に積んであるみかんの段ボール箱の処分”だった。「棚の上に、大きく“みかん”って書いてある段ボールが並んでいて、その中には書類が山ほど入っていたんですよ…」と、苦笑い。
現在のふじようちえんでは、段ボールはおろか、ほとんどペーパーレス。子どもの育ちに貢献するアナログなものは大切にしてますが、ICT化も進んでいる。加藤園長は、子どもが育つところの運営は「表のアナログ、裏のICT」という基本姿勢で臨んでいるそうだ。
求めるものは現場力
職員に求めるものは“現場力”という加藤園長。「保育は、現場での判断が必要になる場面がとても多い」。その育成のため、以前、BBQ研修と称して研修会を開催し、現場力の向上を図っていました。
まず、若手の先生に5万円を渡し、BBQの食材の買い出しを頼む。それだけである。量がどうだとか、これを買ってきてだとかのアレコレは言わない。目的から内容、人数から皿やコップの手配等、様々な準備まで・・・自分たちで考え、決め、行動する・・・「現場力は、依存する心からは生まれません。いわば、人に言われないと何をしていいのかわからない状態からの自立ですね」(加藤園長)

先生が協力して作った旗
国も、男女も、地域も、性格も、考え方のクセも、経験も、得意もそれぞれ違う先生たちが集う学校法人 みんなのひろば ふじようちえん。入社する先生たちの一番初めの仕事は、“ふじようちえんの旗”をつくることだという。同期の先生たちがはじめて力を合わせて一つの旗をつくる共同作業‼この過程を通じて絆を深め、現場でのチームワークづくりの礎にしているという。

園庭の真ん中でなびいている旗
旗は1年間、園庭の中央でなびいている。チームワークの深まりと共に。

園庭に面した場所にある加藤園長の席
そんな園庭を一望できる場所に園長席がある。「何があっても、1番責任をとる者が、1番前に座って、子どもたちの育ちを見ている‼︎という姿勢を示しています」。そう話す園長の表情からは、優しさと強さが溢れていた。
園長であり、経営者であり、一人の人間である加藤園長は、自身の在り方を「素で生きる」と語る。素直な気持ちを追求し続けることこそが、子どもの育ちに寄り添える原点なのだろう。

落ち葉を使って自由に遊ぶ園児たち
だから、園庭を駆ける子どもたちは、あんなにも自由な笑顔を浮かべていたのかと、納得したのである。