【千葉県柏市】「やったことがある!」を子どもに贈る「高いところがあると登りたくなるよね?」(吉田園長)
学校法人柏芳学園 豊四季幼稚園
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築山の頂上に立つ吉田園長
理事長兼園長 吉田和正
1979年3月27日生。豊四季幼稚園の卒園児。園児の頃から、外遊びが大好き。生い茂る草木をジャングルに見立てて、1人で立ち向かっていたこともあった。部屋の中で遊んでいた記憶はあまり残っておらず、唯一思い出したのは、ピアノの下に座り込み、ペダルを手で動かしていたこと。ご自身では「暗い性格だった」と説明していたが、おそらく頭の中には自分だけの明るい世界が広がっていた模様。現在の趣味はサーフィン。高校生の頃から憧れを持ち続け、25歳で念願のサーファーデビューを果たした。
目次
「ダメ!」と言われても…
「知らないこと」は「怖いこと」
砂場は2つありますが、説明書きはありません。
豊(かな)四季(を感じる)幼稚園
ダンゴムシのお家、知ってるよ!
遊ぶように仕事する
柏の葉こども園について
「ダメ!」と言われても…
子どもたちには
「ダメよ!」「ちょっと待って!」と言われても
その衝動を抑えられない時がある。
いったんは止まっても、
ソワソワし始めて
こっそり再開しようとするが、見つかってしまって
また、「ダメよ!」「ちょっと待って!」の繰り返し。

先生と手をつないで廊下を歩く園児
しかし、これらの言葉は
危険から子どもたちを守るためには必要で、
子育てをするうえでは切っても切り離せない言葉だ。
吉田園長は
そんな「ダメよ!」「ちょっと待って!」という言葉から、
しばし距離を置く環境を幼稚園に求めた。そして作り出した。
大切にしていることは
「ここ(幼稚園)だからできることを、思いっきりやらせてあげたい」
という思い。
子どもたちと触れ合う先生たちにも、
「あまり、否定的なことは言わないでほしい」
と、呼びかける徹底ぶりだ。
ただしそれは、「奔放に楽しむこと」とは違う。
「自由」を手にするための「ルール」も覚えなければならない。
吉田園長は、きれいに揃えて並んでいる
園児たちの小さな靴をみていう。

子どもたちが揃えて置いた靴が並んでいる
「子どもたちは、家ではどうしても甘えてしまう」
本を棚に戻すため、おとなしく並んで
順番待ちをする子どもたちに目を移して続ける
「家ではそれでいい。だとすれば、ここ(幼稚園)で学ばず、どこで学ぶのか?」と。

靴をしまう園児
集団生活のルールを学ぶことも、
ここ(幼稚園)だからできる、
子どもたちが思いっきり取り組むことの一つになっていた。
「知らないこと」は「怖いこと」
豊四季幼稚園の廊下にある、園児用の手洗い場。
4つ並ぶ蛇口は全て、“ひねる”タイプのものになっている…、
いや、「した」のほうが正しいか。

豊四季幼稚園の手洗い場。ひねるタイプの蛇口が並ぶ
少し思い返してみてほしい。
街中にあるレストラン、ショッピングモール、駅…
どれほど記憶をさかのぼれば、
蛇口をひねって手を洗ったという場面にたどり着くだろう。
豊四季幼稚園の蛇口も、元はレバー式のものだった。
しかし、“ひねる”という経験を普段の生活ではできないと気付いた
吉田園長がレバーを撤去。今の形に変えたのだという。
「“ひねり”の動作を経験する機会を残しておきたい。その体の動かし方を知っておいてほしい」
と、吉田園長はいう。
隣にあるトイレに入れば、
一つだけ残る子ども用の和式。
和式のトイレを見たことがない子どもたちが
いつか、どこかで遭遇した時
「これはなんだ!?」とひるまないように、
「見たことある!使ってみよう」と思えるように残しているのだとか。
「知らない」というだけで
人はどうしても怖がってしまう。
怖がることで、挑戦する気持ちにもブレーキがかかってしまうものだ。
「見た」「聞いた」という“知識”から
「やったことがある」という“実体験”を育むことができる。
「知ることが、『やったことがある』という経験に変わり、子どもたちのチャレンジできる幅が広がることにつながる」
と吉田園長は語る。
子どもたちの“生きるチカラ”を育てるために
その端緒となる「知る機会」を
園舎のいたるところに残しているのだ。
砂場は2つありますが、説明書きはありません。
豊四季幼稚園の園庭には
2種類の砂場がある。
一つは、サラサラした質感の川砂でできた“さらさら砂場”。

さらさら砂場
もう一つは、水を含むことによって粘土質になる山砂でできた“どろんこ砂場”。

どろんこ砂場
「子どもたちには、2種類の砂場の違いは説明しません」
そう話す吉田園長には、
子どもが経験する“初めての感覚”を
できるだけ多く提供したいという狙いがある。
その感覚は「なんかこれ、知っている」という“感覚記憶”として蓄積される。
そして、小学校や中学校、もしくはもっと先の人生で
感覚の正体を知った時、その記憶が呼び起される。
吉田園長は
「今は感覚を積み重ねていくだけでいい。答え合わせはその先で」
と語る。
川砂や山砂について、
小学校の理科で習う卒園児たちが
「あれ?なんか知っているぞ?もしや!」
と、2種類の砂場を思い出し、
理科がちょっと得意になってくれることを願っている。
そんな工夫がいたるところに施された園庭の中で
吉田園長が最も気に入っているスポットは“築山(つきやま)”。

築山で遊ぶ園児たち
園庭の端にそびえる
標高約150cmの緑色の山。
山の中には土管が埋め込まれていて、
トンネルのように行き来することができる。
「子どもも、(一部の)大人も、高いところがあると上りたくなる」
そう言って、築山の頂上に立つ吉田園長。
高いところに登れば、景色が変わる。
視点を変えると違った見方ができる。
見方が変わると見え方が変わる。
見え方が変わると発想が変わる。
発想が変われば新しいことを創造できる
…かもしれない。
降りるためにも、滑ったり、走ったり、跳んだりする。
子どもたちの好奇心を刺激して、
身体能力も上げてしまう。
そんな築山を、吉田園長は
「体を使い、人と関わることで、心と体と思考の柔軟性を育ててくれる環境の一つ」
と教えてくれた。
豊(かな)四季(を感じる)幼稚園
豊四季の名の通り、
豊四季幼稚園では
四季折々の自然を感じる瞬間がある。
まずは子どもたちを送迎する4台のバス。
「赤」「緑」「黄」「白」の4色で
四季を表現している。
園庭を見回せば、
スギ、ヒノキ、クヌギ…。
2階建ての園舎を軽く超え、
2倍以上の高さにもなる大きな木が20本ほど。

園庭にそびえたつ木々
「できるだけ自然に近い環境の中で遊んでほしい」
という吉田園長の考えのもと、
以前あった飛行船のような形の遊具は撤去した。
その反面、
自然の中にはあるが、園庭にはない動きを追加するため、
ブランコを設置し、“揺れる”動作を
鉄棒を設置し、“ぶら下がる”動作を
取り入れたという。

子どもたちからも大人気のブランコ
木と木の間にあるブランコや鉄棒、
階段のない遊具によじ登って遊ぶ
子どもたちの姿は生き生きとしている。
さらに、季節ごとに体験イベントも開催。
これらのイベントには
保護者が参加しないものもあり、
お父さんやお母さんと離れて、
子どもたちだけでチャレンジする環境を作っている。

敷地には温水プールも設置されている
「吸収のよい、幼いうちにいろいろな経験をしてほしい」
と続けているという。
ダンゴムシのお家、知ってるよ!
送迎バスを待つ数十分の時間、
園児たちは有り余る体力に身を任せ、
園庭に駆け出していく。
1人の女の子が、
およそ20匹のアリが群がる切り株の前にしゃがみ、
拾ってきた落ち葉を差し出した。
「ご飯だよ」

アリにご飯をあげようとする園児
素通りするアリたちに
「もーなんで食べないの?食べないとだめよ?」と、
久々に会ったおふくろ並みの包容力を感じた。
別の女の子が大きな声で、
「私、ダンゴムシのお家知ってる!」と言って、走り出す。
その子を先頭に、数人の園児も走り出した。
園舎横の日陰になっているところに、敷かれたマット。

ダンゴムシのお家に案内してくれる園児
女の子は慣れた手つきでマットをめくり、
小さな手のひらの真ん中に、丸まったダンゴムシをのせて、
「ほら!ほら!見て!」と肘を伸ばす。
今度は男の子が、
どこで拾ってきたのか
クワガタの角の部分を持って、
皆に自慢して回っていた。

クワガタの角を自慢して回る園児
虫たちの予期せぬ動きにはびっくりしながらも、
園庭のいたるところで出会う生き物を興味津々で観察する子どもたち。
暑さに負けて干からびてしまった虫を見ては、
「死んじゃった。かわいそう」と声を震わせる。
子どもたちが自身の経験を通して、
生き物に興味を持った結果である。
吉田園長は
「子どもたちには、大人の価値観を押し付けないことを意識している。虫を怖がったり、危ないと思ったりするのは大人の価値観。子どもたちが、自分で触れ合ってそのうえで好きになったり、嫌いになったりしてほしい」
と話していた。
遊ぶように仕事する
どんな仕事も、遊ぶようにしていると話し、
語弊がないか心配する吉田園長。
幼稚園の仕事は
「子どもの頃に楽しかったことを、今もやっている感覚」
と語る。
園長になる前、担任をしていたときは、
子どもたちと一緒に、砂の上に寝転がって遊んでいた。
「子どもたちが寝そべるのは、虫と同じ目線を体験したいからなんですよ。ちょっとした雑草も、虫たちにとってはジャングルですから」という吉田園長の顔には、童心の残る無邪気な笑みが浮かんでいた。
今も仕事終わりには、カブトムシを探しに行くし、
休みの日には自身の子どもたちを連れて
川や池、沼に魚を捕りに行く。
捕まえた魚たちは、園舎内の水槽や
園庭にある3段の池「ビオトープ」で飼育し、
園児たちの「ここ(幼稚園)だから、できる経験」につながっている。

園庭にあるビオトープ。生き物がトリに食べられてしまうため、現在はネットをかけて守っている
現在、幼稚園やこども園、保育園、子育て支援センター、
学童を運営する学校法人柏芳学園の理事長と
豊四季幼稚園の園長を務めている吉田園長だが、
「肩書は嫌い!」ときっぱり。
「理事長や園長というと、みんな緊張してしまうから嫌だ。普段は先生たちと同じユニフォームを着ているから、わからないですよ」
と笑う吉田園長。
「園見学に来てくれた学生にも、自分の立場は伏せたまま案内します。他の先生にバラされてしまうけど…」
と、にやりと口角をあげる。
そんな吉田園長だが、
「自分が子育て世代ではなくなったら、現場からは離れようと決めている」
吉田園長はいう。
「親子喧嘩の発端はたいてい、子どもから出る『今の時代はこうなんだ!』という不満だ」と。
今、子どもたちが生きている時代を、
子育てからも離れた自分が
正しく理解することは難しいと感じているのだ。
『やはり、ご自身のお子様に園を継いでほしいと思いますか?』という問いには、
吉田園長は「そんなことは、ありません」と即答。
「幼稚園は地域の物であって、吉田家の物ではない。その立場に向いている人がすればいいと思っている」

吉田園長の特等席。窓の外には園庭で遊ぶ園児たちが見える
園舎1階のミーティングルーム
園児が駆け回る園庭を一望できる特等席に座り
吉田園長は語った。
柏の葉こども園について
吉田園長が理事長を務める
もう一つの園「柏の葉こども園」。
根本的な理念は変わらないものの、
子どもたちが園にいる時間が長いことや
地域性によって多少の変化はある。
吉田園長によると、柏の葉こども園には
活発な子どもたちは多いそう。
今後取材を重ね、詳細については別途掲載する予定です。